甲骨文字｜こぼれ話だらけの中国旅行記

香港映画が好きだったり、中国語講座に通ったり
ミーハーなわたしですが
そもそも漢字が大好きで、世界で一番美しい字だと思います。
そして、甲骨文字に辿り着きました。
中国の古典小説「封神演義」をもとに制作された映画「封神伝奇」の時代、
ファンタジーの題材なっちゃうような殷の時代に、甲骨文字はできました。
殷が周に滅ぼされて、その後再び甲骨文字が世に出てくるのは、およそ三千年後の1899年。
翌年に二十世紀になろうとしている頃です。
甲骨文字の研究が始まって、まだたった122年しか経っていません。
その短い間に白川静教授はたくさんの成果を残しました。

名と字

夕は肉の省略形。口は祝詞を納める箱の形。
昔は子供の死亡率が非常に高かったため、三歳、五歳、七歳と節目に子供の成長を祝い、長寿と幸福を祈願した日本の七五三のように、誕生して一定期間過ぎた頃、ご先祖様に肉を供え、祝詞を唱えて命名式を行ったそうです。その儀式の事が名。
ウかんむりは祖先を祀る廟の屋根の形。子は赤ん坊のこと。
日本でも戦国武将を本名で呼ぶのは憚られたので、字あざ名なで呼ぶのが普通だったそうです。平安時代の女性になると呼ぶだけでなく書き記す事も避けられたようで、有名な女性でも本名が後世に残っていない人がほとんどです。(紫式部など)
ハリーポッターの物語の中では、「名前を言ってはいけないあの人」と本名を呼ぶと不吉な事のように語られます。
本名を呼ばないように通名を付けることが字。

日本で名みょう字じは姓の事。
苗字をひっくり返して、字あざ名なは幼名の事。
中国語では、名ming字ziは姓名・名前の事。

なんだかややこしいですよね。
漢字を輸入したての昔の人も混乱したんでしょう。「名」を字という意味で使ってます。
漢字が本家の字で、日本でそれを輸入して仮に作った字を仮名といってます。万葉仮名・平仮名・片仮名って...ね？

莫と朝と暁

莫は日を4つの草が囲んでいる形。草原の向こうの地平線に日が隠れる様子。意味は、「ない(莫なかれ)」「なくなる」「かくれる」「かくす」
漠は、水と莫。水がない事。
舞台やテントの内側をかくすための巾(布)が幕
内臓を守るため、外部からかくす肉が膜。月へんっぽいのは、Moonの意味ではなく、これも夕と同じく肉の省略形で「つきへん」ではなく「にくづき」
足りない力を求めることが募。
力は、農工具の形で、労働力の事。

幸と報と執

幸は手枷の形。跪いた人を上から押さえつけて手枷をはめる形。
手を使った犯罪には、手に枷をはめる罰をもって報いるという事。
一生って事かなあ。
手枷をはめられた人が、跪いている形。
刑罰を執行する事。
報と執の形を見てのとおり、幸は手枷の事。

甲骨文字が作られた殷の時代の刑罰の種類は、首をはねる、腹を裂く、鼻を削る、生き埋めにする、足を断ち切る、切り刻む、手枷をはめる。
そのなかでは、一生手枷をするくらいなら、不幸中のさいわいって事でしょうか。

渉と順と訓

止は右足の形。は左足の形。歩は、右足と左足を交互に出して前に進む形。渉は川を一歩一歩、歩いてわたる事。
川の形と右足と左足と頁を組み合わせた形。頁の一はかんざしの形、目は顔の象徴で、膝を折っている。危険な川を無事に渉れるように、正装して祈願する儀式の事。順の訓読みは「したがう」「順風満帆」って航海の無事を祈っての言葉でしたよね。「風に順したがって帆を満たす」
言と川を組み合わせた形。「順」の儀式で使用する言葉が「訓」
言は辛と口を組み合わせた形。辛は、犯罪者に刺青をする針で、取っ手と血止めのための鍔つばがある形。裁判の前に虚偽の発言はしません、と誓う事。

后と司

中国ドラマ「璎ying珞luo」の中で皇后が女官に篆書を示して諭すシーンがあります。
「后」と「司」は鏡文字です。
「司」という字を書いているのに、字幕では「后」となっていますね。清の頃はほぼ同じ意味で使っていたのでしょうか。
ドラマの中でも描かれますが、皇后は自分を犠牲にして後宮を管理しなければならないそうです。このシーンは、皇后に使える女官もわがままはいけませんと諭しているのです。